体験設計で再来訪を生む顧客満足の高め方。また来たいをつくる

この記事のまとめ

再来訪をつくるには、購入前後を含むすべての接点を設計し、顧客が「また来たい」と感じる情緒的な満足を積み上げる必要があります。

  • 体験設計は商品機能だけでなく、出会いからサポートまでの全過程で情緒的な満足感を生む取り組みです。
  • 顧客満足は短期評価であり、再来訪につなげるには長期のロイヤルティに転換する視点が欠かせません。
  • NPS(Net Promoter Score)などの指標を用いて、再来訪意向とKPIを結び付けて運用します。
  • チャネル分断やサービス品質の見落としは、再来訪を大きく損なう要因となります。


体験設計と再来訪の基本

体験設計は、顧客とのすべての接点で情緒的な満足感を生み出す取り組みであり、その積み重ねが「また来たい」という再来訪の意向につながります。


体験設計の定義と顧客満足との関係

体験設計は、商品やサービスの機能だけでなく、顧客との接点すべてを対象に、情緒的な満足感を意図して生み出す取り組みです。

顧客体験価値とは、商品やサービスの機能そのものだけでなく、出会いから購入、その後のサポートまでのすべての過程を通して、顧客が心で感じる情緒的な満足感を意味します(参照*1)。展示会では、顧客体験設計は来場者が感じる印象・体験・感情を意図して作り出す計画を指します。ブースに訪れた瞬間から名刺交換、製品説明、離場後のフォローアップまで、すべての接点が設計対象になります(参照*2)。

この定義のとおり、体験設計は単発の接客改善ではなく、購入前後を通じた一連の流れを対象にしています。顧客満足を「その場の評価」で終わらせず、次の来訪や推奨につなげるためには、どの接点でどの感情を生みたいのかを言葉にする作業が起点になります。設計の対象範囲を狭く捉えるほど、体験の抜けや落差が発生しやすくなります。


「また来たい」を生む再来訪の仕組み

再来訪は、体験の積み重ねが「また訪れたい」という意向に変わる過程で生まれます。

顧客にどのような体験価値を提供し、その結果どのような認識や行動を生み、どの事業成果につなげるのかを整理して初めて、顧客体験は経営の議題として扱いやすくなります(参照*3)。

観光の分野では、電通が20の国・地域の海外旅行経験者を対象に実施した「ジャパンブランド調査2025」で、観光目的で再び訪れたい国として日本が最も多く挙げられ、その割合は半数を超えました。2位の韓国や3位の米国と比べて大きな差があり、日本は突出した人気を得ています(参照*4)。

再来訪は、「体験価値→認識→行動→成果」という順に生まれる流れの一部です。事業側で先に成果指標を決めてしまうと、途中の体験設計が抜け落ちやすくなるため、どの体験がどの認識をつくるのかを順序立てて考える姿勢が欠かせません。


再来訪を生む顧客満足の全体像

顧客満足は短期的な評価にとどまるため、再来訪に結び付けるには、体験の積み重ねをロイヤルティへ転換する視点が求められます。


顧客満足・CX・ロイヤルティの関係

顧客満足を再来訪に結び付けるには、顧客満足・顧客体験・ロイヤルティという3つの概念の違いを踏まえる必要があります。

顧客満足度(CS)は、特定の体験や取引に対する短期的な評価を指します。一方で顧客体験(CX)は、認知から利用、サポートまでを含む長期的な体験全体を捉える概念であり、顧客ロイヤルティは、これらの体験の積み重ねから生まれる信頼や愛着を意味します(参照*5)。

満足度調査の結果が良好でも、リピート購入につながらない場合は少なくないとされています。満足度が「不満のない状態」を表すのに対して、ロイヤルティは「そのブランドを選び続ける理由がある状態」を表すため、収益との相関はロイヤルティのほうが高いとされます(参照*6)。

この違いを踏まえると、再来訪を狙う場面では、満足度の平均点を追うよりも、選び続ける理由をつくれているかを確認する視点が有効です。短期の評価と長期の関係性を分けて扱うことで、施策の優先順位が定まりやすくなります。


購買行動の因果モデルと6指標

顧客満足は単独の点数ではなく、購買行動全体の流れの中で位置づけて捉える必要があります。

日本生産性本部のJCSI(日本版顧客満足度指数)は、顧客満足度を正しく多面的に測定するため、購買行動の因果モデルとその6指標を調査・分析の枠組みとしました。これは商品やサービスを購入・利用する際の心の動きと行動を、利用前から利用後までの6つの項目でとらえ、各項目間の因果関係をモデル化したもので、米国の顧客満足度指数(ACSI)などを土台に開発されています(参照*7)。

顧客満足度を高めることは、LTV(顧客生涯価値)の向上につながります。満足度の高い顧客は、継続利用や再購入の可能性が高く、アップセル・クロスセルにも応じやすくなります(参照*5)。

こうした因果の枠組みは、単発の点数ではなく前後関係を追う分析に向いています。どの段階の指標がどの段階に影響するのかを整理することで、改善の投資先を体験の上流に置きやすくなります。


再来訪につながる体験価値の要素

体験価値は複数の要素で構成され、無意識に働く感覚面まで含めて捉えることが、再来訪を生む設計の土台になります。


顧客体験を構成する5つの価値

顧客体験価値は、複数の価値が組み合わさって成り立ちます。

マーケティング研究で広く用いられる戦略的経験価値モジュールに基づき、体験価値は次の5つの要素に分けて説明されます(参照*1)。

  • 感覚価値(Sense)
  • 情緒価値(Feel)
  • 思考価値(Think)
  • 行動価値(Act)
  • 連帯価値・関係性価値(Relate)

感覚に働きかける刺激については、消費者が感覚刺激の影響を意識しないままブランドへの印象や行動が変わる点に特徴があります。BGMが遅くなると人は店内に長居し、コーヒー豆の香りが漂うと空間の印象が変わり、重い紙袋を持つと中身への期待感が高まるといった変化は、いずれも無意識の水準で起きています(参照*8)。

これらの整理のとおり、体験価値は意識的な評価だけでは決まりません。再来訪を狙う設計では、機能面の説明に加え、店内の音や香り、持ち帰る物の質感など、無意識に働く要素まで配慮する余地があります。


優れた顧客体験のSix Pillars

優れた顧客体験を捉える視点として、6つの要素からなる枠組みが知られています。

KPMGは、優れた顧客体験を構成する6つの要素として「Six Pillars(パーソナライズ、誠実性、親密性、期待の充足、利便性、問題解決力)」を定義しました。加えて、価格に見合った価値としてのバリュー、推奨度、今後も使い続けるかというロイヤルティ、各タッチポイントチャネルの満足度などの観点から顧客体験を評価し、CEE(Customer Experience Excellence)スコアとして集計した結果を分析しています(参照*9)。

この枠組みでは、顧客体験を評価する視点は単一の満足度に留まりません。パーソナライズや利便性、問題解決力といった要素を個別に点検することで、どの柱が弱く再来訪の障害になっているのかが見えやすくなります。


体験設計の進め方と手順

体験設計は、企業側の前提と顧客の実像のズレの点検、カスタマージャーニーによる可視化、重点体験の絞り込みという順序で進みます。


3つのズレの点検

体験設計を進める最初の作業は、企業側の前提と顧客の実像を突き合わせることです。

1つ目は、顧客像のズレです。企業が「この顧客に選ばれたい」と考える顧客と、実際に商品やサービスを選んでいる顧客が合っているかを確かめます。2つ目は、選ばれている理由のズレで、企業が強みだと考えている価値と、顧客が実際に評価している価値が合っているかを見ます。3つ目は、体験の流れのズレです(参照*3)。

この3つのズレを起点にすると、施策の議論が「思い込み」から「事実確認」へ切り替わります。ズレの有無を先に確かめておかないと、体験の改善が的外れになり、再来訪への効果も鈍りやすくなります。


カスタマージャーニーによる可視化

ズレを把握した次の段階では、顧客の行動と心理を時系列で並べて見える形にします。

カスタマージャーニーとは、顧客が商品・サービスを「認知」してから「購入」、さらに「継続利用」や「推奨」に至るまでの行動や心理の変化の流れを、時系列と各タッチポイントに沿って可視化する分析手法です。顧客体験(CX)の全体像を把握し、体験価値の最適化を図ることで、企業の競争力を強化する狙いがあります(参照*10)。

購買行動モデルのAMTUL(アムツール)も、認知・記憶・試用・本格的使用・ブランド固定の5段階で顧客の長期的な態度の変化を捉える枠組みです。短期的な購買衝動を説明するAIDMAと異なり、試用から本格的使用、ブランド固定へと購買後の段階を分けて捉える点に特徴があり、各段階は使用経験率や今後の購買意向率などの指標で定量的に捕捉できるとされています(参照*11)。初回来場を再来訪、そして習慣的な来場へ育てる設計を考えるうえで、段階ごとの指標を持つ発想が参考になります。


重点体験の特定と施策化

ジャーニーの可視化を踏まえて、どの接点に力を入れるかを絞り込みます。

展示会では、ブースを訪れた瞬間から名刺交換、製品説明、そして会場を離れた後のフォローアップまで、すべての接点が設計の対象となります(参照*2)。

重点接点を選ぶ際は、次のような視点があります。

  • 再来訪の意向を左右する情緒が生まれる場面
  • 顧客が迷いや不安を抱きやすい移行の場面
  • フォローアップなど利用後に評価が定着する場面

再来訪意向を高める判断基準と指標

再来訪の意向は、他者推奨意向を測るNPSや、満足度と組み合わせたKPIを通じて数値で把握できます。


NPSによる測定

再来訪の意向を数字で把握するために、他者推奨意向を測る指標が広く使われます。

ANAは、「ANAを家族や知人に勧める機会があるとした場合、どの程度勧めたいですか」という他者推奨意向を顧客に尋ね、「とても勧めたい 10」から「全く勧めたくない 0」までの11段階のうち当てはまるレベルを回答してもらう方式を採用しています。「0~6」を批判者、「7~8」を中立者、「9~10」を推奨者と定義し、推奨者の割合から批判者の割合を差し引いて算出します(参照*12)。

この算出方法は、平均点だけを見る調査では見えにくかった顧客の温度差を数値で扱う手立てとなります。推奨者と批判者の構成比を追うことで、どの層に対する体験設計の見直しが必要かを判断しやすくなります。


再来訪意向とKPIの設定

観光分野では、来訪者満足度と再来訪意向をKPIとして扱う枠組みが整理されています。

観光庁では、来訪者満足度はKSF(重要成功要因)の「来訪者数の管理」に対応し、来訪者の満足度・利便性を高めることで、質の高い来訪を促し、旅行消費額の拡大につなげるKPIとして計測します。5段階評価(大変満足・やや満足・わからない・やや不満・大変不満)のうち、大変満足とやや満足を合わせた割合を用います。再来訪意向は、当該年のマネジメント区域内来訪者のうち再来訪意向ありの割合とします(参照*13)。

この設計は、満足度と再来訪意向を別のKPIとして分けて扱う点に特徴があります。両者を分けて追うことで、満足はしているのに再来訪意向が伸びない状況を早期に把握できます。


再来訪を逃す失敗例と注意点

チャネル間の体験の分断やサービス品質の見落としは、商品への満足度が高くても再来訪を損なう要因になります。


チャネル分断とパーソナライズ不足

顧客が接するチャネルの体験がそろっていないと、再来訪の意向は下がりやすくなります。

VERINT社が実施した「デジタル顧客体験レポート2024(The State of Digital Customer Experience Report 2024)」では、450名の業界リーダーと1,500名の顧客を対象に、顧客体験を構成する最も重要な要素を尋ねました。その結果、87%が「問い合わせ時に素早く対応してもらえること」と回答しました(参照*14)。

この結果は、素早い応答が体験評価の中核に置かれていることを示しています。チャネルごとに応対品質や情報連携がばらつくと、顧客の期待に対する落差が生まれ、再来訪の判断に影響しやすくなります。


サービス品質の見落とし

商品への満足だけを追いかけると、サービス面の体験が抜け落ちる場合があります。

MS&Consultingのミステリーショッピングリサーチ(覆面調査)の分析では、「商品・サービスの両方が満点」のレポートと「商品は満点だがサービスは満点ではなかった」レポートを比較した結果、再来店意思の満点比率は、商品満足度が高くてもサービスに惜しさがあると46%低下することが分かりました(参照*15)。

VERINT社の調査では、質の低い顧客体験を提供された場合の行動として70%が競合他社への乗り換えを挙げ、素晴らしい体験を提供された場合は85%が再購入、75%が友人や家族への推薦を挙げました(参照*14)。


再来訪を生んだ事例と実践

航空・保険・住宅・小売の各業界では、推奨意向の指標を軸に体験設計を見直し、再来訪や契約継続につなげた事例が報告されています。


航空・保険業界の体験設計

航空と保険の分野では、他者推奨意向を軸に体験設計を進める事例があります。

ANAグループは、顧客の旅の流れを16個のタッチポイントに整理した「ANA Customer Experience」を通じて商品・サービスの品質向上を目指しています。2019年より、他者推奨意向を数値化したNPSを活用しています(参照*12)。

東京海上日動火災保険の事例では、従来の顧客満足度調査ではどの支店も前後1%程度の幅にすべて収まっていましたが、NPSではプラス50~60からマイナス50~60程度まで点数に有意な差が出ました。さらに、NPSが高い代理店は契約継続率も高いことが分かりました(参照*16)。


住宅・小売業界の顧客志向改革

営業担当者の交代や、事業拡大の停滞という場面でも、体験設計の見直しが行われています。

アイダ設計の調査からは、人事異動や退職などで営業担当者が変わるタイミングで顧客の推奨度が下がることが分かりました。要因を詳細に分析した結果、「前任者からの引き継ぎが十分にされていない」ことが全体の推奨度を下げていました(参照*17)。

楽天グループは、NPSを成長戦略の重要なKPIとして位置付けています。導入の理由は、創業後順調に伸びていた楽天市場の新規利用者数が、2014年に増えなくなったことにあります。分析の結果から顧客との関係性にさらなる改善の余地があると判断し、新たな重要KPIの1つとして採用しました(参照*18)。


おわりに

再来訪を生む体験設計は、購入前後を含むすべての接点で情緒的な満足を積み上げ、それを長期の関係性へ変えていく取り組みです。顧客満足を短期の評価で終わらせず、ロイヤルティや再来訪意向へ接続する視点が中心となります。

そのためには、顧客像・強み・体験の流れという3つのズレを点検し、カスタマージャーニーで接点を可視化し、NPSや再来訪意向といった指標で成果を追うという流れが有効です。事例に共通するのは、指標を成長戦略の中に位置づけ、体験の弱点を発見し続ける姿勢だといえます。


参照

(*1) 株式会社博展 HAKUTEN | Communication Design® – 顧客体験価値(CX)とは?重要性と高めるためのポイント

(*2) 株式会社博展 HAKUTEN | Communication Design® – 展示会における顧客体験設計とは?成果につながるCXの作り方を解説

(*3) 【第2回】CXは、顧客理解のズレを捉えることから始まる

(*4) 広がる・深まるジャパンブランドの世界

(*5) Commune(コミューン)|コミュニティプラットフォーム – 顧客満足度分析(CS分析)とは?意味・手法・活用方法を体系解説|LTVと解約率を改善する実践ガイド

(*6) DNP 大日本印刷株式会社 – 顧客ロイヤルティとは?向上させる方法やメリット、指標、企業事例を解説

(*7) 公益財団法人日本生産性本部 – 統計手法(JCSI因果モデルとは)

(*8) Ad-Virtua(アドバーチャ) – センサリーマーケティング(五感マーケティング)とは|五感別の手法・効果データ・業種別の着手ガイド|Ad-Virtua(アドバーチャ)

(*9) KPMG – KPMGコンサルティング、「生活者に支持される顧客体験に関する調査2025-2026」を発行

(*10) WOR(L)D ワード|大和総研の用語解説サイト – カスタマージャーニーとは?4つの要素と活用の注意点を解説

(*11) AMTUL(アムツール)|グロービス経営大学院 創造と変革のMBA

(*12) お客様体験価値の向上

(*13) 観光地域づくり法人(DMO)による KGI・KPI 計測に係る手引書 ver1.0

(*14) 株式会社エクサ – 顧客はどこで離れていくのか― デジタル体験の質の低さがもたらす影響とは

(*15) 株式会社MS&Consulting_コーポレートサイト – 【パン屋の経営を考える】リピーターを増やし、売上を高めるためのポイント

(*16) 東京海上日動(Medalliaプラットフォーム導入事例) お客さまの体験価値のさらなる向上を支援するCXMシステム構築プロジェクト

(*17) 株式会社エモーションテック | 感情データの解析技術で最適な意思決定を。 – 株式会社アイダ設計 | 株式会社エモーションテック

(*18) 株式会社エモーションテック | 感情データの解析技術で最適な意思決定を。 – 2025年更新【国内】NPSを活用する企業事例9選!取り組みのポイントも解説 | 株式会社エモーションテック