猛暑時代の遊園地運営 暑さ対策で満足度を高めるアイデアとは?
はじめに
猛暑が常態化するなかで、遊園地運営は来園者と従業員の双方を守りながら満足度を高める工夫が欠かせません。本記事の要点は次のとおりです。
- 暑さ指数(WBGT)を運営判断の共通軸として使い、警戒アラートや体感温度の要素を踏まえた基準を持つこと。
- 日陰・ミスト・打ち水・待機列改善・夜間シフトなど、動線と時間の両面で暑熱を和らげること。
- びしょ濡れ演出やクールグッズ配布で、暑さを楽しさに変える体験設計を組み込むこと。
- クルーの朝食習慣や巡回サポート、救護所と搬送フローの整備で、緊急時に強い運営体制を築くこと。
猛暑時代における遊園地運営の課題
気温上昇と来園者行動の変化
猛暑の常態化は、屋外レジャーそのものの選ばれ方を変えつつあります。
外で遊ぶこと自体が敬遠されがちになり、テーマパークは夏の体験設計の見直しを迫られています。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは、暑さを逆手に取った演出と空間づくりで来場体験を更新する動きが進んでいます(参照*1)。
夏の集客は「暑さの中でも楽しめる設計」を持てるかどうかで差がつきます。天候に左右されにくい体験を設計し、暑さ自体を体験の一部として扱う視点が、遊園地運営の前提になりつつあります。
熱中症リスクと運営責任
多くの来園者と従業員を抱える遊園地では、熱中症リスクへの備えが運営責任の中心に位置します。
厚生労働省は、職場における熱中症について休業4日以上の死傷者数が増加傾向にあることを踏まえ、予防策を検討したうえで「職場における熱中症防止のためのガイドライン」を策定しました(参照*2)。
遊園地は、屋外で長時間過ごす来園者と、接客・運行を担うクルーの両方に責任を負います。国のデータや指針を運営基準に落とし込み、来園者の安全とクルーの労働災害防止を同じ土台で設計することがポイントです。
暑さ指数(WBGT)を活用した運営判断
WBGTの基礎と測定方法
運営判断のよりどころとして、暑さ指数(WBGT)の理解が欠かせません。
環境省によると、暑さ指数(WBGT、湿球黒球温度)は熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標で、人体と外気との熱のやりとりに着目し、湿度、日射・輻射など周辺の熱環境、気温の3つを取り入れています(参照*3)。
環境省のガイドラインでは、屋外のWBGTを「0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度」で算出するとしています。WBGTが3℃上昇するとランクが1つ厳しくなるため、少しでもWBGTの低い環境を保つことが重要だとされています(参照*4)。
遊園地では、気温だけを見て判断すると危険度を見誤ります。パーク内の代表地点でWBGTを継続的に測り、日ごと・時間帯ごとの変化を運営判断の共通言語にすることが土台になります。
警戒アラートと運営中止基準
行政のアラートを、パーク運営の判断基準と連動させる仕組みも重要です。
熱中症の危険性が極めて高くなる暑さ指数が33以上と予測された場合には、環境省と気象庁から注意を呼びかける「熱中症警戒アラート」が発表されます。加えて、2024年からは都道府県単位で暑さ指数が35以上になると予測される日の前日14時に、さらに一段階上の「熱中症特別警戒アラート」が発表されることになりました(参照*5)。
遊園地運営では、警戒アラート発表時にどのアトラクションを短縮運行にするか、屋外パレードを時間帯変更するか、あらかじめ基準を決めておくことで判断が速くなります。特別警戒アラートは前日14時に発表されるため、翌日の運営計画に反映する社内フローを整えておくと、当日の混乱を避けやすくなります。
体感温度に影響する要素
同じ気温でも、環境によって人が感じる暑さは大きく変わります。
環境省のガイドラインによると、人が感じる暑さは気温だけでなく、湿度、風の強さ、日射や高温化した路面などから放出される熱(赤外放射)の違いに大きく影響されます。夏の晴れた日中には気温が30℃でも日向の体感温度は40℃程度になる場合があり、一方で大きな樹木の木陰に入ると頭上からの日射と足元からの赤外放射が大幅に減り、日向にくらべ体感温度が7℃程度低くなる場合があります(参照*6)。
遊園地の動線には、アスファルトの広場や金属製の手すりなど、赤外放射を強く発する要素が多くあります。木陰と日向の差が体感で7℃程度ある点を踏まえ、休憩スペースや待機列を木陰側へ寄せるだけでも、来園者の体感を大きく下げられます。
遊園地で実践する暑さ対策アイデア
日陰・緑陰による動線の暑熱緩和
動線そのものに緑陰を組み込むことは、暑さ対策の基本になります。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは、熱中症対策として、ケヤキの木陰で休憩できる並木道にミストが加わり進化した『クール・グリーン・ストリート』が登場し、同じく青々と茂ったケヤキの木陰で一休みできる憩いの場をパーク内にさらに新設しています(参照*7)。
大阪府は、駅前広場や駅周辺、観光スポットなど不特定多数の人が集まる場所の暑熱環境を改善するため、市町村などが行う都市緑化と日除けや微細ミスト等の暑熱環境改善設備の設置に対して助成を行っています(参照*8)。
遊園地においても、樹木の並木や日除けを主要動線に沿って計画的に配置することで、来園者は日向を長く歩かずに済みます。緑陰と設備を組み合わせる考え方は、行政の助成対象にもなっており、設備投資として位置づけやすいアプローチです。
ミスト・打ち水・冷却設備の活用
ミストや打ち水は、限られた投資で体感温度を下げやすい手段です。
環境省のガイドラインによると、日陰になっている路面に散水もしくは給水すると路面温度は気温より低下し、体感温度が1℃程度低下します。微細ミストを噴霧すると、気化熱により局所的に気温が2℃程度、体感温度が1℃程度低下します。日陰で微細ミストを噴霧した場合は、ノズルから風下側の水平方向に約5mの範囲内(弱風時)の気温が平均的に2℃、瞬時的には5℃程度低下することが確認されています(参照*6)。
遊園地では、日陰とミストを組み合わせることで効果が出やすくなります。散水やミストを単発の演出で終わらせず、時間帯や場所を運営データと結びつけて配置することが、体感改善につながります。
行列・待機列の混雑緩和策
待ち時間は暑熱ストレスが最も高まる場面であり、行列設計の見直しが効きます。
環境省のガイドラインは、待機列を作らない工夫と日陰への誘導を挙げています。再集合時刻を明示して長時間の待機をさせないこと、「指定席」を導入して席確保のための待機をさせないこと、開場時の混雑緩和の工夫として入場する施設のゲート数を増やしたり幅を広くしたりすることなど、求めています(参照*4)。
遊園地の運営では、整理券やアプリでの時間指定、屋根や樹木の下への列の折り返しといった工夫が、そのまま来園者の暑熱ストレス軽減につながります。開場時の入場ゲート数や幅を見直すことも、朝の集中を分散させ、日向で並ぶ時間を短くする効果が期待できます。
夜間営業・時間帯シフトによる涼の創出
時間帯そのものを動かすことも、有力な暑さ対策になります。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは、『NO LIMIT! パレード ~Discover U!!! バージョン~』の開催時間を夕方の過ごしやすい時間帯へ変更しました(参照*9)。
遊園地全体で見ても、パレードや屋外ショーを夕方以降にずらすことで、演者と観客の双方の負担を下げつつ、夜間の集客を伸ばす余地が生まれます。日中は屋内施設と休憩導線、夕方以降は屋外エンタメというメリハリを持たせることで、時間帯ごとに異なる楽しみ方を提示できます。
暑さを楽しさに変えるエンタメ演出
びしょ濡れ体験と水を活かした演出
暑さ自体をエンタメに転換することで、体感と満足度の両方を上げられます。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは、頭上から降り注ぐ大量の水で「びしょ濡れ」になれると昨年好評を博した『クール・スプラッシュ・タイム』を今年も実施します。同社は、ミストスプレーで描くパークの仲間たちを楽しみ、ゲスト自身も参加できるパーク名物の「スプレーアート」をキャノピー下で実施するとしています(参照*7)。
暑さ対策を楽しさに変える設計は、クール・スプラッシュ・タイムのような突然の打ち水演出から、夜間の開園時間を延長して涼しい時間にアトラクションやグリーティングを延長する工夫まで、多層的に展開されています(参照*1)。
クールグッズ配布とホスピタリティ
冷感グッズや素材の工夫は、来園者一人ひとりの体感に直接働きかけます。
三島スカイウォークでは、つり橋を渡る前に特設ブースを設置し、希望者に使い捨て冷感ネックタオルや塩分タブレットなどの「熱中症対策グッズのプレゼント」や「日傘レンタル」を実施しています。加えて、冷感ミストを用意し、衣服に吹きかけて障害物のないつり橋を渡りながら風を受け、涼しさを一層感じながら絶景の爽快つり橋体験を楽しめるようにしています(参照*10)。
浅草花やしきでは、屋外アトラクションが基本的に金属製で熱を持ちやすいことから、今年の夏から『ぴょんぴょん』の座席や『ディスク・オー』の表面を『熱交換塗料』に変え、熱を吸収しにくくすることで技術面から快適にアトラクションを楽しめる工夫をしています(参照*11)。
配布物と設備側の工夫を組み合わせることで、来園者は「持ち歩ける涼しさ」と「触れる場所の涼しさ」の両方を得られます。ホスピタリティを暑さ対策と結びつける設計は、リピート意向を高める要素にもなります。
従業員(クルー)の熱中症対策
オアシス隊とクールダウン拠点
屋外で長時間働くクルーには、専任の巡回サポートと拠点整備が有効です。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは、7年目となる「オアシス隊」について、稼働の期間を延長し、クルーの数に合わせポジション数を多くするなど対策を強化しています(参照*9)。
同社では、専任の「オアシス隊」がクルーのもとに冷たいおしぼりやスポーツドリンク、塩分タブレットを届ける体制を整えてきました。加えて、クルーが自由に利用できる「オアシススポット」をパーク内の裏動線に複数設置し、物理的なサポートとしては、ステンレス製の給水ボトルやファン付きのベスト、暑さ対策に対応した新ユニフォームの配布も実施しています(参照*1)。
巡回型の補給と、裏動線の休憩拠点を組み合わせることで、クルーは持ち場を大きく離れずにクールダウンできます。装備・拠点・巡回の三層で支える発想は、屋外接客の多い遊園地に応用しやすい枠組みです。
暑熱順化と朝食習慣・ユニフォーム
クルーの体調管理は、日々の生活習慣と暑さへの慣らしから始まります。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは、朝食を摂る習慣のある人は熱中症になりにくいという知見をもとに、その習慣をクルーに作ってもらえるよう、夏の前半はクルーカフェで朝食の提供を行っています(参照*9)。
環境省のガイドラインでは、スタッフに健康診断を受診させ、その結果は守秘義務をかけて整理して保存すること、イベントの1週間前くらいからスタッフに汗をかく程度の活動で計画的に暑さに慣れさせることなどを挙げています(参照*4)。
厚生労働省は、職場における熱中症防止対策に係る検討会の報告書「~令和8年夏に向けて~」を取りまとめ、「職場における熱中症防止のためのガイドライン」を策定しました(参照*2)。遊園地運営では、朝食支援、事前の暑熱順化、教育、ユニフォームや休憩環境の整備を年間の運営計画に組み込むことが求められます。
救護体制と緊急時マニュアル整備
救護所設置と医療連携
多くの来園者を迎える遊園地では、救護所と医療連携の設計が運営の土台になります。
環境省のガイドラインによると、大規模なイベントでは、多くの場合、イベント会場に医療救護所を配置しています。この救護所で可能な限り現場で初期治療と医療機関での治療が必要かどうかの判断を行い、本当に必要な患者だけを搬送する体制をとっています(参照*4)。
遊園地でも、救護所の配置数と位置を来園者の動線と結びつけて設計し、医療機関との連携ルートを事前に共有しておくことで、搬送判断が迅速になります。
応急処置と搬送フロー
現場での応急対応と搬送フローは、事前の共有と告知が初動の速さを左右します。
環境省のガイドラインは、傷病者発生時の対応責任者に加え、誰が傷病者の通報、搬送をするのか、対応スタッフを具体的に明示した傷病者発生時の連絡フローを定め共有することを求めています(参照*4)。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは、めまい、立ちくらみ、手足のしびれ、頭痛、吐き気などの症状が出たときはすぐに近くのクルーに声をかけること、子どもには体温の調整に十分に気を配ること、のどの渇きを感じていなくてもこまめに水分を補給すること、熱中症の疑いがある場合はすぐにファーストエイド(救護所)を利用することを来園者に案内しています(参照*12)。
連絡フローの明文化と、来園者への具体的な症状・行動の告知を組み合わせることで、初動が速くなります。運営側はマニュアルを作って終わりにせず、クルー全員が同じ言葉で説明できる状態を保つことがポイントです。
おわりに
猛暑時代の遊園地運営は、WBGTを軸にした運営判断、動線と時間帯の設計、暑さをエンタメに変える演出、そしてクルーの健康管理と救護体制まで、多層で組み立てる必要があります。国のガイドラインや先進的なパークの事例は、いずれも「事前に基準を持ち、装備と拠点を用意し、当日の運用でつないでいく」という共通した骨格を示しています。
夏の来園体験は、暑さと向き合う工夫の総量で決まります。参照した具体策を自園の動線・営業時間・人員配置に置き換え、来園者にもクルーにも安全で快適な夏を届ける設計を少しずつ積み重ねていくことが望まれます。
参照
(*2) 職場における熱中症防止対策に係る検討会 報告書|厚生労働省
(*4) https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/gline/heatillness_guideline_full.pdf
(*5) 環境省 – 「熱中症特別警戒アラート」等の運用を開始します | 報道発表資料 | 環境省
(*6)https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/guidelineH30/gudelineH30_all.pdf
(*7) 合同会社ユー・エス・ジェイ – 2026年も 「熱中症ゼロへ」 を目指し
(*8) 大阪府 – 都市緑化を活用した猛暑対策事業/大阪府(おおさかふ)ホームページ [Osaka Prefectural Government]
(*9) 合同会社ユー・エス・ジェイ – 25周年のユニバーサル・スタジオ・ジャパン、夏の夜を一新 『ユニバーサル・サマー・マツリ・ナイト ~ネオン・グロウアップ~』本日先行公開
(*11) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 日本最古の遊園地!浅草花やしきの暑さ対策
(*12) Universal Studios Japan – 熱中症にご注意ください|ユニバーサル・スタジオ・ジャパン|USJ
