リニューアル成功施設に共通する3つの考え方

はじめに

老朽化や客層の変化により、多くの施設がリニューアルを迫られています。しかし、改修に踏み切ったすべての施設が成果を上げているわけではなく、投資に見合う効果を得られないケースも少なくありません。

施設リニューアルの成功施設を分析すると、共通する3つの考え方が浮かび上がります。それは「コンセプトの再設計」「動線・回遊性の最適化」「環境性能とバリアフリーの両立」です。本記事では、この3つの考え方を軸に、背景や具体的な実践手順、事例から得られる判断基準を順に解説します。



施設リニューアルの背景と課題


老朽化・客層変化が迫る転換点

施設リニューアルが急がれる背景には、建物の老朽化と利用者層の変化という2つの要因があります。既存の建築物の多くは現行の省エネ基準を満たしておらず、2050年ネット・ゼロの実現に向けて脱炭素化の促進が不可欠な状況です(参照*1)。建物そのものの性能が時代の要請に追いついていないことが、リニューアルを検討する大きなきっかけとなっています。

もう一つの転換点は、客層の変化です。ある商業施設では、テナント誘致にあたり周辺商圏の状況を確認したところ、開業当時からの客層が変化していたことが判明し、MD計画の再設定に踏み切りました(参照*2)。建物の物理的な劣化だけでなく、利用者ニーズとのずれが施設の集客力を低下させるため、ハード面とソフト面の両方から現状を見直す必要があります。

こうした老朽化と客層変化の二重の圧力が、施設リニューアルの転換点を形成しています。どちらか一方だけに対処しても根本的な解決にはつながりにくく、両面を同時に捉えた計画が求められます。


リニューアルで失敗する施設の共通点

施設リニューアルに踏み切っても、すべてが成功するわけではありません。全国に1,200か所以上ある道の駅のうち、約3割が赤字経営に陥っていると言われています(参照*3)。地域振興の拠点として定着した施設であっても、にぎわいを維持できないケースが存在する事実は、リニューアルの方向性を誤るリスクを示しています。

失敗施設に共通するのは、ハードの刷新だけに注力し、コンセプトやターゲットの再定義を怠る傾向です。建物を改修しても、周辺商圏の変化に合わせた計画見直しが伴わなければ、投資効果は限定的にとどまります。前述の商業施設の事例でも、客層の変化が確認されたことでMD計画の再設定が必要になりました(参照*2)。

つまり、物理的な改修と戦略的な見直しを切り離してしまうことが、リニューアル失敗の大きな要因です。成功施設がどのような考え方で克服しているかを整理します。


成功施設に共通する3つの考え方


施設リニューアルの成功施設を分析すると、共通する3つの考え方が見えてきます。成功を導いたポイントとして、「地域資源に根ざした独自性のあるコンセプト設計」「モノからコトへの体験価値を高める施設・サービス設計」「ターゲットを明確にした戦略的な情報発信とイベント展開」の3点が挙げられています(参照*3)。

また、空間デザインの観点からは、「何のためにデザインするか」という目的意識が重要であり、その軸となるのが「機能×情緒×ビジネス」の掛け合わせです(参照*4)。施設全体のコンセプトを「DRAMATIC PARK」と定め、日常の中に新たな発見や高揚感を生み出す空間づくりを推進している事例もあります(参照*5)。

これらを踏まえ、本記事では成功施設に共通する3つの考え方を「コンセプトの再設計」「動線・回遊性の最適化」「環境性能とバリアフリーの両立」として整理し、以降の章で具体的に掘り下げます。


考え方1:コンセプトの再設計


ターゲットとブランド価値の再定義

成功施設に共通する3つの考え方の1つ目は、コンセプトの再設計です。その出発点となるのが、ターゲットとブランド価値の再定義にあたります。ある施設リニューアルでは、ニューターゲットを「子育てファミリー層」と定め、忙しい平日にも家族の揃う休日にも使い勝手の良い施設づくりを目指しています(参照*5)。漠然と「幅広い層に対応する」のではなく、具体的な利用シーンを想定したターゲット設定が、施設の方向性を明確にしています。

商業施設の魅力を引き出すためにはコンセプトの明確化が不可欠であり、たとえば「自然との共生」をコンセプトにした施設では木材やグリーン、自然光などを取り入れた空間を設計しています。デザインを通して訪れた人にコンセプトを直感的に伝えることができるためです(参照*6)。

ターゲットを絞り、それに合致するブランドの世界観を空間で表現することが、リニューアル後の施設に一貫性をもたらします。ブランド価値の再定義は、後続するMD計画や動線設計の土台として機能します。


体験価値を軸にしたMD計画の刷新

ターゲットとコンセプトが定まった後に取り組むべきが、体験価値を軸にしたMD計画の刷新です。消費者のニーズはモノの所有からコトの体験へとシフトしており、施設も単に商品を売る場所から楽しい時間を過ごす場所へと進化することが求められています。成功事例の多くは、リニューアルを機にこの「体験価値」を劇的に向上させています(参照*3)。

あるミュージアムのリニューアルでは、これまでのコアファン向けという枠を越え、偶然立ち寄った家族連れでも十分に楽しめる場へと進化を図り、何度も訪れたくなる体験を通じて来場者数の拡大を目指しました(参照*7)。ターゲットの裾野を広げつつ、繰り返し訪問したくなる体験を設計した点が特徴的です。

MD計画の刷新では、物販だけでなく飲食やイベントといった体験要素を組み合わせることで、施設全体の回遊性や滞在時間にも好影響を与えます。この体験価値の設計が、次に取り上げる動線・回遊性の最適化と密接に結びついています。


考え方2:動線・回遊性の最適化


ゾーニングと導線設計の基本原則

成功施設に共通する3つの考え方の2つ目は、動線・回遊性の最適化です。用途や展示物によってエリアを分ける方法は「ゾーニング」と呼ばれ、PP(ポイントプレゼンテーション)を活用して来場者の回遊性を高め、施設内の滞在時間を延ばすための導線づくりを行います(参照*8)。ゾーニングと導線設計は、来場者がストレスなく施設全体を巡れるかどうかを左右する基本原則です。

ある商業施設では、スーパーマーケットの誘致に対応した館内区画の再整備が行われ、動線の見直しやサイン計画の刷新により来館者の回遊性と利便性を高める計画が提案されました(参照*2)。また、あるミュージアムでは来場者が自然に順路をたどれるよう、製品と次の製品をつなぐストーリーを矢印型のボードで示し、動線を床面に着彩するなど来場者視点の細かな工夫も施しています(参照*7)。

こうした事例から、ゾーニングと導線設計は図面上の区画割りだけにとどまらず、案内サインや床面の色分けといった細部の工夫まで含めて一体的に設計することが有効だとわかります。


滞在時間を伸ばすKPI設定と改善手法

動線を設計しただけでは、リニューアルの成果を定量的に把握することは難しくなります。コンセプトを具体的な設計へ落とし込む前に重要となるのがKPI設定であり、デザインの成果をどの指標で測るかを定める段階です。商業施設であれば「滞在時間」「回遊率」、売上やリピート率が指標として挙げられます(参照*4)。

滞在時間を伸ばすためには、「自然と長く過ごしたくなる空間」の演出がポイントです。利用者が商業施設に長く滞在するほど、購買や飲食、体験などの機会が増え、全体の売上アップにつながります(参照*6)。

KPIを事前に設定しておくことで、リニューアル後の効果測定が可能になり、さらなる改善につなげる土台が整います。滞在時間や回遊率といった指標を定期的に計測し、導線やゾーニングの微調整を繰り返す運用が、成功施設の特徴です。


考え方3:環境性能とバリアフリーの両立


省エネ改修とZEB・BELS評価の活用

成功施設に共通する3つの考え方の3つ目は、環境性能とバリアフリーの両立です。まず環境性能の面では、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)におけるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の表示基準が設けられています。対象範囲は住宅を含まない建築物とされ、「ZEB」の表示には基準一次エネルギー消費量から50%以上の削減に加え、100%以上の削減が求められます(参照*9)。

一方で、テナントビルにおいては建物の開発・運用者と使用者が異なることが脱炭素化の取り組みを加速させるうえでの課題となっています。テナントビルに本社を構える企業が多い一方、テナントビルにおけるZEBの事例はまだ少ないのが現状です(参照*10)。

省エネ改修をリニューアルに組み込む際は、BELSやZEBの評価基準を計画段階から意識しておくことで、建物の環境性能を客観的に示せるようになります。テナントとオーナーの役割分担が障壁になりやすい点は、計画の初期段階で調整しておく必要があります。


ユニバーサルデザインと法適合の実務

環境性能とあわせて取り組むべきがバリアフリー対応です。バリアフリー法は、高齢者や障害者等の移動上および施設利用上の利便性と安全性の向上を促進し、公共の福祉の増進に資することを目的としています。同法に基づき、ハード・ソフト施策の充実を通じて、すべての人が暮らしやすいユニバーサル社会の実現が促進されています(参照*11)。

国土交通省は、床面積の合計が2,000平方メートル以上の特別特定建築物の総ストックの約70%について、令和12年度までに移動等円滑化を実施する方針を掲げました(参照*12)。さらに、特別特定建築物において既存建築物バリアフリー改修事業の補助を受けてバリアフリー改修工事を行った場合、固定資産税・都市計画税が一定期間減額される場合があります(参照*13)。

環境性能の向上とバリアフリー対応は、施設の社会的価値を高めるだけでなく、税制面での優遇や補助制度を活用できる可能性があり、投資対効果の観点からもリニューアル計画に早い段階で組み込むことが有効です。


3つの考え方を実践する手順


現状診断から計画策定までの流れ

3つの考え方を実践するには、現状診断から始めるのが基本です。既存施設を有効に利用するためには、法的な条件整理や構造の検証、設備の盛り替えや更新など多くの専門知識や技術が必要となります(参照*14)。法的条件・構造・設備の3点を初期段階で整理し、リニューアルの方向性に制約がないかを確認することが出発点です。

現状診断の結果を踏まえたうえで、コンセプト再設計、動線最適化、環境性能とバリアフリーの3つの考え方を計画に落とし込みます。環境省は、外皮の高断熱化と高効率空調機器等の導入加速を支援することで、産業競争力強化・経済成長と建築物からの温室効果ガスの排出削減を共に実現し、さらに健康性や快適性などの向上を図る方針を示しています(参照*1)。

診断から計画策定までの流れでは、ハード面の制約条件を先に洗い出し、そのうえでソフト面の戦略を重ねていく順序が、手戻りを防ぐうえで効果的です。


官民連携・補助制度の活用ポイント

計画策定の段階で検討したいのが、官民連携や補助制度の活用です。ある公会堂の建替え事例では、民間事業者から代替施設を整備せず既存の公会堂施設を継続利用できる建替計画が提案されました。その結果、公会堂を閉鎖することなく整備できるとともに、代替施設の建設・解体が不要となり、財政負担の軽減と工期の短縮が実現しました(参照*15)。

バリアフリー改修においても、既存建築物バリアフリー改修事業の補助を活用すれば、固定資産税・都市計画税の減額を受けられる場合があります(参照*13)。官民連携の枠組みや補助制度は計画の初期段階で要件を確認し、スケジュールに組み込んでおくことが、資金計画の安定化につながります。


成功事例に学ぶ判断基準と注意点


用途転用・段階改修の比較と選び方

施設リニューアルの手法は、用途転用と段階改修の大きく2つに分けられます。用途転用の事例としては、商店街にあった大型商業施設を高齢者保健福祉総合施設へ転換したケースがあり、「環境と福祉に重点を置いた高齢者に優しい町づくりの一端ができた」と地域から評価されています。新築に比べて工期を短縮し、建設コストも低減でき、利用者の入居費用を低く抑えることができました(参照*16)。

段階改修の事例としては、病院の増築棟に移った病棟部分をバッファー(改修のために一時移転するスペース)として利用し、既存建物を病棟・診療科単位ごとに順次改修する手法があります。増築棟の竣工から約4年をかけて病院全体をリニューアルしました(参照*14)。

用途転用はコスト削減と工期短縮に強みがあり、段階改修は施設を稼働させながら改修できる利点があります。施設の立地条件や利用者への影響を考慮して、どちらの手法が適しているかを判断することが求められます。


コスト超過・工期遅延を防ぐチェック項目

施設リニューアルでは、計画どおりに進まないリスクへの備えも欠かせません。商業施設のリニューアル現場では予期せぬ課題が発生しやすく、設計者や建築主が定期的に現場を確認して工程のずれや品質の低下を防ぐことが求められます。テナントのオープン時期に合わせた施工管理が厳格に求められる点も、商業施設特有の難しさです(参照*6)。

既存施設の改修では、法的な条件整理や構造の検証、設備の盛り替えや更新など多くの専門知識が必要となるため、計画段階での見落としがコスト超過や工期遅延に直結します(参照*14)。

コスト超過と工期遅延を防ぐためには、現場確認の頻度とタイミングをあらかじめスケジュールに組み込み、テナントの開業時期から逆算した工程管理を徹底することが有効です。


おわりに

施設リニューアルの成功施設に共通する3つの考え方は、「コンセプトの再設計」「動線・回遊性の最適化」「環境性能とバリアフリーの両立」です。どれか一つだけに偏るのではなく、3つを一体的に計画へ組み込むことが、成果を左右する分岐点となります。

現状診断から計画策定、官民連携や補助制度の活用、そして施工段階でのリスク管理まで、各段階でこの3つの考え方を判断の軸として持ち続けることが、施設リニューアルを着実に前進させる力になります。


参照

(*1) 環境省 – 建築物の省エネ化の支援強化に関する予算案を閣議決定 ~引き続き建築物の脱炭素化を後押ししていきます~

(*2) 大和ハウスリアルティマネジメント株式会社 – 核テナント退店による収益減を最小化し、資産価値を向上|事例紹介|大和ハウスリアルティマネジメントの不動産ソリューション

(*3) 道の駅の成功事例集。リニューアルと経営戦略が鍵

(*4) 企業の想いと未来を伝える ショールームデザイン アーカイブ|Future ShowRoom – ビジネスを成功に導く空間デザインの考え方を解説

(*5) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 【より魅力的な施設を目指し、SCと百貨店が協働!】2030年までに段階的に京王聖蹟桜ヶ丘ショッピングセンターを全館リニューアル!

(*6) Home<span class=’nav_jp’>ホーム</span> | 株式会社 片岡英和建築研究室|京都の建築設計事務所・建築家 片岡英和|Hidekazu Kataoka Architect & Associates – 商業施設設計のポイント|集客と事業性を両立する空間づくりとパートナー選定

(*7) 博報堂プロダクツ – 【事例紹介】フィロソフィーと歴史を立体化させる、企業ミュージアム「ホンダコレクションホール」

(*8) 企業の想いと未来を伝える ショールームデザイン アーカイブ|Future ShowRoom – ショールームの導線デザインとは?設計する上でのポイントを紹介

(*9) BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)

(*10) 環境省「ZEB PORTAL – ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」 – リーディングテナント行動方針とは

(*11) 道路:歩行空間のユニバーサルデザインの推進:バリアフリー法の概要

(*12) 国土交通省における 建築物バリアフリー化の取組み

(*13) 建築:建築物におけるバリアフリーについて

(*14) 変化に強い!-施設を効率的に利用:既存施設を有効利用

(*15) 第3章 PPP/PFI 事例集 〈事例編〉

(*16) 安心と満足のリニューアル|リニューアル事例:医療・福祉施設