なぜ今、遊園地の集客は難しくなっているのか

はじめに

コロナ禍を経て売上高が過去最大を記録する一方、日本の遊園地業界では集客の難しさが増しています。少子高齢化やレジャーの多様化、運営コストの高騰といった構造的な課題が重なり、来場者数の確保はかつてないほど複雑な問題になりました。

チケット値上げによる客単価向上と来園意欲の低下、インバウンド需要の恩恵を受ける施設と取り残される施設の格差など、対処すべき論点は多岐にわたります。本記事では業界データや個別事例をもとに、遊園地の集客が難しくなっている背景と、その中で成果を上げている施設の取り組みを紹介します。



遊園地業界の現在地


コロナ禍からの売上回復と入場者数の推移

コロナ禍では入場制限の影響で入場者数が激減し、遊園地業界は深刻な打撃を受けました。2020年の集客動向を示す「公園、遊園地・テーマパーク」の第3次産業活動指数は前年比マイナス44.8%という大幅な低下を記録しています(参照*1)。

売上高の動きを見ると、2019年に約7,184億円だった水準が2020年には約2,638億円まで急落しました。その後、2022年にはコロナ禍の制限緩和により約6,000億円まで持ち直し、2023年には過去最大の8,441億円を達成しています。入場者数も2023年に7,238万人とコロナ前の水準に回復しました(参照*2)。

さらに直近の2024年の売上高は、チケット代の値上げやインバウンド需要の回復などを背景に、コロナ以前を大きく上回る水準となっています(参照*1)。売上の数字だけを見れば力強い回復ですが、その中身には値上げやインバウンド効果など、入場者数の純増とは異なる要因が含まれている点に留意が必要です。


大手と地方の二極化構造

業界全体の売上が回復する一方で、施設間の格差は広がっています。大手テーマパークが積極的な投資を進める中、入場者減や施設老朽化により苦戦する事業者も存在し、二極化が進行している状況です。コロナ収束やインバウンド再拡大の恩恵を受けやすいのは大規模施設であり、変動料金制や有料優先サービスの導入によって客単価の向上も実現しています(参照*3)。

テーマパークは天候リスクや景気変動によって需要の振れ幅が大きく、集客の安定確保が経営の鍵を握ります(参照*3)。大手であれば設備投資やマーケティング費用で需要の波をならすことができますが、地方の中小施設は同じ手法を採りにくく、結果として業績の明暗が分かれやすい構造にあります。


集客を難しくする構造的要因


少子高齢化と市場規模の縮小

遊園地の集客を根本から揺るがしているのが少子高齢化の進行です。テーマパーク業界における課題の一つとして、少子高齢化による市場規模の縮小が挙げられています。影響は入場者数の減少にとどまらず、現場で働く人手の不足にも及んでおり、実際に人手不足に悩む運営会社も多く存在します(参照*2)。

主要な来園者層であるファミリーや若年層の人口そのものが減少していく以上、従来と同じやり方で入場者数を維持することは構造的に難しくなります。来園者の母数が縮小する中で、いかに1人あたりの体験価値を高め、リピートにつなげるかが今後の焦点といえます。


レジャーの多様化と可処分時間の奪い合い

遊園地以外の選択肢が増え、可処分時間の奪い合いが激しくなっています。レジャーの選択肢が広がった現代では、単に「楽しさ」を伝えるだけでは消費者の足を運ばせることが難しくなっています(参照*4)。

動画配信やゲーム、アウトドアなど自宅や近場で完結する娯楽が増え、わざわざ遊園地に出向く動機づけのハードルは上がっています。消費者の限られた可処分時間を獲得するには、遊園地でしか得られない体験を明確に打ち出す必要があり、集客戦略の精度が以前にも増して求められています。


運営コスト高騰と人手不足

運営コストの高騰は、遊園地の経営を圧迫しています。遊園地や水族館は施設やアトラクションの稼働・維持に電気が欠かせず、電気代の値上げは収益悪化に直結します。コストカットにも限界が近づくと、チケットの値上げが避けられなくなります(参照*5)。

エネルギー費だけでなく人件費の上昇も重くのしかかっており、前述のとおり人手不足自体も深刻です。コストが上がれば価格に転嫁せざるを得ませんが、値上げが進めば来園のハードルも上がります。コスト増と集客維持の間で、運営者は難しい舵取りを迫られています。


チケット値上げのジレンマ


値上げ施設の拡大と料金推移

運営コストの上昇を受け、チケット値上げに踏み切る施設は急増しています。2025年に入場料の値上げを行った国内主要レジャー施設は71施設にのぼり、前年の37施設から1.9倍に増加しました。テーマパークに限ると100施設中51施設が値上げし、初めて半数を超えています(参照*6)。

料金水準も上昇傾向が続いています。一般券の平均価格は前年の1,626円から1,695円へ、フリーパスの平均価格は4,597円から4,846円へと上がり、フリーパスは5,000円に迫る勢いです。一般券とフリーパスの平均価格差は、2022年の2,571円から2025年には3,151円へ拡大しており、チケット種別間の料金格差も広がっています(参照*7)。


ダイナミックプライシングの功罪

値上げの動きと並行して、需要に応じて料金を変動させる変動料金制(ダイナミックプライシング)を導入する施設も増えています。土日祝日や夏休みといった繁忙期に合わせて料金を変動させる仕組みで、導入施設は15施設に達しました。大規模で来場者が多い施設では、値上げだけでなく来場者の分散化が期待できる手段として導入が加速しています(参照*5)。

一方で、価格差の拡大はダイナミックプライシングの影響でもあります。一般券は価格据え置きの傾向が強い反面、フリーパスはハイシーズン料金や土日祝料金の設定によって上振れしやすく、チケット種別間の格差拡大につながっています(参照*7)。混雑緩和という利点がある一方で、繁忙期にしか来園できない層にとっては実質的な負担増となるため、導入には慎重な設計が求められます。


客単価向上と満足度低下の板挟み

値上げによる収益確保には、来園者の満足度という大きなリスクが伴います。「若者のテーマパーク離れ」に代表されるように、特に若年層で高額な価格設定に対する来園意欲の減退が指摘されています。価格に対する期待値とのズレから、コアなファンや既存顧客のリピート率が低下する動きも見られます(参照*6)。

一部施設ではチケットの値上げが続く一方で顧客満足度が低下するという現象が生じており、売上向上と満足度維持のバランスにジレンマを抱えています。価格に見合う価値を来園者に提供できるかどうかが、値上げを軸とした収益確保の成否を分ける条件です。集客と収益を両立するためには、単純な価格引き上げだけでなく、体験の質そのものを底上げする投資が欠かせません。


インバウンド需要の光と影


訪日客増加とテーマパーク訪問率の変化

訪日外国人の増加は、遊園地業界にとって追い風となっています。2024年の訪日外国人数は年間で3,600万人を突破して過去最多を記録し、12月単月でも約348万9,800人と過去最高でした。旅行消費額も2024年で8.1兆円に達し、前年比53.4%増と大幅に伸びています(参照*8)。

ただし、テーマパークへの訪問意欲は必ずしも上向きではありません。2回以上の訪日経験者を対象に前回と今回の訪日目的の差を確認した調査では、「レジャー」が4.6ポイント上昇した一方で、「観光(テーマパーク)」は7.8ポイント低下しています(参照*8)。訪日客の総数は増えていても、テーマパークへの来訪がそのまま比例して増えるわけではない点が、集客の見通しを複雑にしています。


リピーターの関心移行と地方施設の課題

訪日リピーターの関心がテーマパークから他のレジャーへ移りつつあることは、特に地方施設にとって深刻な課題です。訪日客の訪問先は東京都54.3%、千葉県44.4%、大阪府33.9%など大都市圏に集中しており、千葉県の高い訪問率は東京ディズニーリゾートの存在と成田空港からの周遊ルートに起因しています(参照*9)。

地方施設は海外での認知度の低さという壁にも直面しています。よみうりランドが2023年11月に台湾の旅行博へ初めて単独出展した際、現地での認知度が予想以上に低いことが判明しました。来園実績がある台湾からの来場者が多いにもかかわらず、「東京のどこにあるのか」「そもそもどんな施設なのか」といった基本的な質問が相次ぎ、施設の魅力を伝える段階にすら至らなかったといいます(参照*10)。海外市場に向けた認知獲得には、アクセス情報の発信だけでなく体験価値の訴求まで含めた設計が求められます。


集客に成功した施設の共通点


USJに学ぶターゲット拡大と体験価値

集客が難しい環境にあっても、戦略次第で成果を出している施設は存在します。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)はその代表例です。かつてのUSJは映画ファンを主な顧客ターゲットとしていましたが、対象が狭くテーマパークの規模に見合う来場者数を確保できていませんでした。そこでターゲットをファミリー層、関西圏の住民、さらに海外からの来場者へと広げ、ユニバーサルワンダーランドなどファミリー向けアトラクションの充実や日本の人気アニメとのコラボレーションを実施しています(参照*11)。

季節イベントへの注力も成果につながりました。ハロウィンシーズンの来場者はかつて約7万人でしたが、施策の結果40万人以上に増加し、関西を代表するハロウィンイベントへと成長しています。ターゲットの再定義と体験の拡充を組み合わせたことで、USJは集客力を大きく伸ばしました。


低予算でもリピーターを生む仕掛け

大規模投資が難しい施設でも、既存の園内資源を活用することで、再来園のきっかけをつくることは可能です。たとえば、よみうりランドでは、園内を舞台にしたリアル脱出ゲーム「全国夜の遊園地シリーズ」が開催されています。同シリーズは、遊園地を一日楽しめる企画として展開され、累計40万人以上が参加しています(参照*12)。

この事例が示しているのは、集客において必ずしも最新の大型アトラクションだけが必要ではないということです。園内の既存空間を「歩く・探す・解く・達成する」体験に変えることで、来園者の滞在時間や回遊性を高められます。さらに、季節やテーマを変えて展開すれば、一度来園した人に対しても「次は別の体験をしたい」という再訪理由をつくりやすくなります。


これからの集客で問われる視点


デジタルとリアルの融合戦略

遊園地の集客では、デジタル施策とリアルの体験をかけ合わせる視点が欠かせなくなっています。ターゲットの行動心理を深く理解し、デジタルとリアルを融合させた戦略的なアプローチが必要です(参照*4)。

具体的な手法としては、検索広告で「週末 お出かけ 子連れ」のような具体的なニーズを持つ層に直接アプローチする方法があります。過去に自社サイトを訪れたユーザーに広告を再表示するリマーケティング広告は、検討段階にある見込み客の来園予約を後押しします。さらに、位置情報を活用したジオターゲティング広告を使えば、近隣エリアにいる潜在顧客へタイムリーに情報を届けることも可能になります(参照*4)。デジタル広告で来園動機を喚起し、現地でしか味わえないリアルな体験で満足度を高める、この一連の流れを設計できるかが集客の成果を左右します。


価格に見合う価値をどう設計するか

チケット値上げが業界全体のトレンドとなる中、集客を維持するには価格に見合った体験価値の提供が不可欠です。値上げの背景には電気代や人件費などの運営コスト上昇があり、来場者数よりも客単価を重視する方向へのシフトが見られます。その具体策の一つが、待ち時間短縮など付加価値のあるチケットの販売です(参照*13)。

来園者に「この価格を払う理由がある」と感じてもらえるかどうかが、値上げ後の集客を左右します。遊園地の運営者にとっては、料金の引き上げと同時に、来園者がその場でしか得られない体験やサービスの質をどこまで高められるかが問われています。


おわりに

遊園地の集客が難しくなっている背景には、少子高齢化やレジャーの多様化、運営コストの高騰、そしてチケット値上げと顧客満足度のジレンマといった複数の構造的要因が絡み合っています。インバウンド需要は追い風ではあるものの、リピーターのテーマパーク離れや地方施設の認知度不足など、恩恵を享受するためのハードルも存在します。

こうした状況を踏まえると、ターゲットの再定義、デジタルとリアルを融合させた集客設計、そして価格に見合う体験価値の提供が、これからの遊園地経営において欠かせない視点となります。自施設が置かれた条件を正確に把握したうえで、どの課題から手をつけるかを見極めることが、集客改善の第一歩です。


参照

(*1) 経済産業省 METI Journal ONLINE – 遊園地やテーマパークの売上高はどう変わった? | 経済産業省 METI Journal ONLINE

(*2) キャリアチケット就職 – テーマパーク業界の現状と今後の動向は?将来性や就職活動のポイントを解説

(*3) 株式会社 帝国データバンク[TDB] – レジャー施設業界の動向と展望|株式会社 帝国データバンク[TDB]

(*4) 株式会社ドラマ – 遊園地の集客を最大化する広告戦略|ターゲットに響く媒体選びと運用のポイント – 京都のホームページ制作会社【株式会社ドラマ】SEOやAI活用でのWEB戦略に強い

(*5) 株式会社東京商工リサーチ – この1年で遊園地の8割弱が値上げ 料金変動制は14%の施設で導入~主な遊園地・レジャー施設の「価格改定・値上げ」調査~ | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ

(*6) tdb.co.jp

(*7) forbesjapan.com – テーマパーク値上げの裏側 レジャー施設の深層と顧客満足 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

(*8) 知るギャラリー by INTAGE – インバウンド「モノ消費 × コト消費」への進化~訪日外国人客が求める「日本ならではの体験」~ – 知るギャラリー by INTAGE

(*9) インバウンド対策ラボ – ホテル旅館の訪日外国人集客支援 – 訪日タイ市場トレンド分析【都道府県別ランキング】|インバウンドニュース|インバウンド対策ラボ – ホテル旅館の訪日外国人集客支援

(*10) Vpon – 訪日観光客前年比156%を達成 | よみうりランド事例

(*11) freeconsultant.jp for Business – USJのマーケティング戦略の全貌|森岡氏が実践したフレームワークと手法、成功理由を解説 – freeconsultant.jp for Business

(*12) 【公式】全国夜の遊園地シリーズ『夜の魔法学校からの脱出』(魔法遊園地脱出) – 東京 | 【公式】全国夜の遊園地シリーズ『夜の魔法学校からの脱出』(魔法遊園地脱出)

(*13) All About(オールアバウト) – レジャー施設の4割がチケット代値上げ。ディズニー、USJ、ちいかわパークはいくら? [家計簿・家計管理] All About