アトラクション導入で失敗する施設の共通点
はじめに
遊園地やアミューズメントパークにとって、新しいアトラクションの導入は集客力を左右する大きな経営判断です。しかし、多額の資金を投じたにもかかわらず、期待した成果を得られず経営が傾く施設は少なくありません。アトラクション導入で失敗する施設には、どのような共通点があるのでしょうか。
失敗には需要予測の甘さや安全管理の軽視といったパターンが存在します。本記事では、「失敗」の定義を整理したうえで6つの共通パターンと具体的な事例を紹介し、導入時に押さえるべき要点を解説します。
アトラクション導入失敗の定義
「失敗」が指す3つの意味
アトラクション導入における「失敗」は、大きく3つの意味に分けられます。1つ目は、来場者数が計画を大幅に下回り、投資を回収できない「収益面の失敗」です。2つ目は、事故やトラブルによって営業停止や閉園に追い込まれる「安全面の失敗」です。3つ目は、ターゲット層に響かずリピーターが定着しない「顧客満足の失敗」です。
北米のテーマパーク閉園事例を分析した研究では、破産申請、過大な債務や慢性的な赤字、低い顧客満足度、開発圧力、拡張余地の不足、そして地域市場への立地が、閉園した施設に多く見られた要因として挙げられています(参照*1)。これら3つの側面は独立しているように見えますが、実際には相互に連鎖して施設全体の経営を悪化させるケースが大半です。
北米テーマパーク閉園率31%の背景
1955年から2009年の間に北米で開園したテーマパークのうち、31%が閉園に至っており、その原因を分析する研究が行われています(参照*1)。
この研究では、財務パフォーマンスを悪化させる原因を探ることに重点が置かれました。つまり、数字上の赤字が表面化するよりも前の段階で、計画や運営にどのような問題があったのかを明らかにしようとした点に特徴があります。アトラクション導入の失敗を考えるうえで、この「原因」への着目は欠かせない視点です。
失敗施設に共通する6つのパターン
楽観的すぎる需要予測
アトラクション導入の失敗で最も多い原因のひとつが、楽観的すぎる需要予測です。開業前の来場者数見込みが実態とかけ離れていると、収益計画が崩れます。開業前の集客予想を行う際、その予想値が楽観的すぎることは繰り返し指摘されています(参照*2)。
需要を過大評価した場合、在庫や設備が過剰になり、保管や維持のコストが膨らみます。在庫は「現金がモノに変わって眠っている状態」であり、過剰な在庫は企業の現金を拘束してキャッシュフローを悪化させます(参照*3)。テーマパークの場合、在庫の代わりに過大な施設設備がそのまま固定費として経営を圧迫するため、需要予測の精度は導入判断の出発点として慎重に検討する必要があります。
ターゲット設定のミスマッチ
どれほど大型のアトラクションを導入しても、想定する顧客層と実際の来場者層が合わなければ集客にはつながりません。Hard Rock Parkの事例では、薬物や性的な表現を含む大人向けの演出が施設に盛り込まれていたことが、子ども連れの家族層にとって不適切だと判断されました。後の新オーナーは、搾乳をする牛のオブジェや「Magic Mushroom ride」の薬物表現を撤去し、子ども向けの明るい空間に変更しています(参照*4)。
恐怖やホラーだけを売りにする場合も、需要予測の段階で十分な集客規模に達しにくいとの指摘があります。この指摘は、ターゲット層の幅を狭くしすぎることのリスクを表しています(参照*5)。ターゲットの設定は、提供する体験の方向性と集客規模の両面から検証することが求められます。
過大な初期投資と回収計画の甘さ
巨額の初期投資は、来場者数が計画を下回った瞬間に施設の経営を直撃します。Hard Rock Parkは4億ドルを投じてサウスカロライナ州マートルビーチに開園しましたが、2008年4月から9月までの営業期間中に訪れた来場者は40万人に届きませんでした。そして同年9月24日に閉園し、関連会社は連邦破産法第11章に基づく破産手続きに入っています(参照*4)。
国内では、西武園ゆうえんちが2021年5月に100億円を投じて昭和をテーマとしたリニューアルを実施しました。リニューアルから約2年後、2022年4月から2023年3月の決算で、親会社である西武ホールディングスは西武園ゆうえんち等の事業に関して28億円の赤字を計上しています。売上高は36億円であり、利益率はマイナス78%という大幅な赤字でした(参照*2)。投資額に見合う回収計画の策定がいかに重要かを、これらの事例は示しています。
安全管理・保守体制の軽視
アトラクションの安全管理を怠ると、事故による営業停止や施設そのものの閉鎖という最悪の失敗を招きます。エキスポランドでは、装置検査の頻度も検査そのものも不十分であり、アトラクションを15年間走らせたまま車軸の損傷に気がつきませんでした。車軸には金属疲労による深い傷があり、軌道が上向きから下向きに変わる箇所で、かろうじてつながっていた部分が曲げ力に耐え切れず破断しています(参照*6)。
事故後、国土交通省は翌日に全国へ緊急点検を指示しました。安全管理の不備は自施設の問題にとどまらず、業界全体の信頼を損なう事態にまで波及します。保守体制の構築は、アトラクション導入と同時に計画すべき欠かせない要素です。
拡張性を欠く施設設計
開園時のアトラクションだけで長期的に集客を維持することは困難であり、施設の拡張余地は経営の持続性に直結します。北米テーマパークの閉園事例を分析した研究では、閉園した施設に共通する要因のひとつとして「拡張のための敷地が限られていること」が挙げられています(参照*1)。
拡張余地がなければ、新規アトラクションの追加やエリアの刷新といった施策が物理的に実行できません。来場者に「前回と同じ体験しかない」と感じさせてしまうと、リピーターの減少につながります。施設の設計段階から将来の拡張計画を織り込むことが、導入後の失敗リスクを抑える手立てとなります。
立地と商圏の過大評価
どれだけ魅力的なアトラクションを導入しても、商圏の人口や観光需要を過大評価していれば、来場者数は計画に届きません。北米の閉園事例の分析では、閉園した施設は「地域市場への立地」に偏っていたことが指摘されています(参照*1)。広域から集客できる立地か、それとも周辺住民に限られる地域市場なのかによって、想定できる来場者数の上限は大きく変わります。
立地の判断を誤ると、開業後にマーケティング費用を追加投入しても根本的な解決にはなりません。商圏の規模と交通アクセスの条件を冷静に評価することが、アトラクション導入の前提として欠かせないステップです。
国内外の失敗事例に学ぶ教訓
Hard Rock Park:4億ドル投資と半年での破綻
Hard Rock Parkは、アトラクション導入の失敗を象徴する事例です。2008年4月にサウスカロライナ州マートルビーチで開園しましたが、わずか半年後の9月24日に閉園しました。4億ドルという巨額の投資にもかかわらず、営業期間中の来場者数は40万人未満にとどまっています(参照*4)。
閉園後に破産手続きを行い、2009年2月にFPI-MB Entertainment, LLCに2,500万ドルで売却されました。新オーナーはLed Zeppelinのジェットコースターをタイムマシンのテーマに変更し、すべてのバンド関連の装飾を撤去しています(参照*4)。4億ドルの投資が2,500万ドルでの売却に至ったこの事例は、需要予測の楽観視とターゲット設定の誤りが重なった結果を表しています。
エキスポランド:15年間放置された車軸
エキスポランドの事故は、安全管理の軽視がもたらす最悪の失敗を示す国内の事例です。同施設のアトラクション「風神雷神II」は、建築基準法などにより年1回の目視による定期検査が義務づけられており、施設側も毎年2月頃に実施していました。あわせて車両を分解する点検も自主的に行っていましたが、事故のあった年は開園35周年記念のアトラクション新設のため、分解点検は5月15日から始める予定だったとされています(参照*7)。
しかし実態としては、装置検査の頻度と検査そのものが不十分であり、アトラクションを15年間走らせたまま車軸損傷に気がついていませんでした。事故後、エキスポランドは全施設の点検をやり直し、風神雷神IIの廃止と撤去を決定しています。遺族の理解を得て2008年8月に営業を再開しましたが、同年10月に倒産、2009年2月に破産しました。2009年9月28日には、役員等3名と法人に有罪判決が下されています(参照*6)。日常的な保守体制の欠如が、施設の存続そのものを不可能にした事例です。
SeaWorld Kraken VR:運用負荷の見落とし
アトラクションの導入では、開業後の運用負荷を見落とすことも失敗の要因になります。SeaWorld Orlandoは、2000年に開業したジェットコースター「Kraken」を刷新するため、2017年6月にVR(仮想現実)ヘッドセットを導入しました。しかし導入からわずか1年余りでヘッドセットは撤去され、完全に廃止されています(参照*8)。
撤去の理由は、ゴーグルの清掃と調整に時間がかかり、待ち列が長くなりすぎたことでした。新しい技術を取り入れること自体は集客の手段として有効に見えますが、乗車ごとの運用工程が増えれば1時間あたりの乗車人数が減り、顧客体験を損なうことになります。技術の新しさだけでなく、日々の運用コストとオペレーション効率を事前に検証することが欠かせません。
失敗を防ぐ導入プロセスの要点
需要予測と投資回収シミュレーション
アトラクション導入の失敗を防ぐためには、根拠に基づいた需要予測が出発点になります。需要予測とは、過去の販売実績データや顧客データ、さらには市場動向や気象情報などの各種要因をもとに、数理統計的な手法や定性的な判断を用いて、将来の特定期間における需要量を推定するプロセスです。中長期的な需要予測に基づき、新店舗の立地選定や数十億円規模の工場ライン増設といった投資対効果(ROI)を試算する手法が用いられています(参照*3)。
テーマパークにおいても同様に、商圏人口、交通アクセス、競合施設の状況など複数の変数を組み合わせて需要を推定し、その結果をもとに投資回収のシミュレーションを行うことが求められます。楽観的な単一シナリオだけではなく、来場者数が想定を下回った場合のシナリオも含めて試算することで、撤退や計画修正の判断基準を事前に設定できます。
国際安全基準への準拠
安全面の失敗を防ぐには、設計段階から国際的な安全基準に準拠することが有効です。アトラクションの設計基準(ASTM F2291)は、設計者、技術者、製造者、所有者、運営者に対して、アトラクションの設計や大規模な改修に用いる基準と参考情報を提供する規格です。関連する条項が、アトラクションの設計と設計変更に適用されます(参照*9)。
遊戯機械の安全要件(ISO 17842)は、移動式・仮設・恒久設置のいずれの遊戯機械にも適用される国際規格であり、安全な設計、計算、製造、設置を確実にするために必要な最低要件を定めています(参照*10)。エキスポランドの事例が示すように、自主検査だけに頼る体制では重大な見落としが生じ得ます。国際基準を導入プロセスに組み込むことで、安全管理の属人化を避け、検査の質と頻度に一定の水準を確保できます。
おわりに
アトラクション導入の失敗には、楽観的な需要予測、ターゲットのミスマッチ、過大投資、安全管理の軽視、拡張性の欠如、立地の過大評価という共通パターンが繰り返し現れます。4億ドルを投じて半年で閉園したHard Rock Parkも、15年間の点検不備で事故と倒産に至ったエキスポランドも、複数のパターンが重なった結果です。
失敗を防ぐには、データに基づく需要予測と複数シナリオでの投資回収シミュレーション、そして国際安全基準に沿った保守体制の構築が欠かせません。導入を検討する際は、本記事で取り上げた6つのパターンを自施設の計画に照らし合わせてみてください。
参照
(*1) STARS – An Analysi” by Kelly Kaak
(*2) Journal of Amusement Park – 「ジャングリア沖縄」見落とされがちな失敗因子#1 刀の実績
(*3) 需要予測とは何か?|定義・目的からビジネスでの重要性までを体系的に解説|技研商事インターナショナル
(*4) https://www.ded.uscourts.gov/sites/ded/files/opinions/09-290.pdf
(*5) ダイヤモンド・オンライン – なぜ西武園ゆうえんちに「昭和の街」が生まれたのか?
(*6) 失敗年鑑2007:エキスポランド、ジェットコースター事故
(*7) コースター脱輪、女性死亡19人けが 大阪・万博公園
(*8) WKMG – SeaWorld Orlando ditches VR goggles on Kraken Unleashed roller coaster
(*9) Standard Practice for Design of Amusement Rides and Devices
(*10) ISO – ISO 17842-1:2023
